[委託先団体] 株式会社東海アクアノーツ
[連携大学] 東海大学海洋学部 環境社会学科 教授 石川智士
[連携団体] 由比港漁業協同組合、静岡市海洋産業クラスター協議会
本事業では由比港近傍の未利用海域「カワラナカ」(沿岸部から400m、海底砂礫、水深15m)にシーラントを用いた大規模人工藻場を造成し、シーラントの持つ集魚効果を活用した漁場造成手法の開発を目的としました。
シーラントとは、図1のような形状で、炭素高含有ポリエチレン発泡体からなり、人工海藻の効果を期待するものです。本年度は、当海域における人工藻場の設置と安定性の確認、漁場形成の確認を主眼として調査研究を進めました。
■ 高波浪等に対する耐久性
人工海藻は10月1日に台風16号が最接近し高波浪を経験しましたが、流失、破損は見られず高波浪海域での実用性が証明できました。
R3/8/23 |
台風16号 最接近 R3/10/1 |
R3/10/7 |
R3/10/19 |
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■ 集魚効果の確認
38種の魚介類が確認され、アオリイカの人工藻場での滞留も確認され、当調査海域においても集魚効果が確認されました。魚介類の滞留時間は小区画(シーラント60本)で少なく、大区画(小区画×5地域)で多い傾向が見られました。藻場の規模が魚介類の滞留時間に影響する可能性が示唆され、漁場としての機能を高めるには規模拡大が重要と考えられました。
メジナ |
カンパチ |
クロサギ |
イシダイ |
ブリ |
アオリイカ |
[写真2:人工藻場の魚介類] |
■ 付着基盤としての機能
設置後80日あたりからコケムシ類、カンザシゴカイ類等の定着性多毛類、サンカクフジツボ等のフジツボ類の着生が僅かに確認されました。12月調査の段階ではシーラント表面全体に付着珪藻の着生、2022年2月調査では大型海藻のカジメ幼体の生育が確認され、海藻の付着基盤としての機能も確認されました。
■ 人工藻場内部・外部の環境変化
底質の強熱減量値から富栄養化は無く、人工藻場内で底生生物は増加し、光環境は藻場内外で大差がありませんでした。人工藻場周辺で大きな環境変化はなく、魚介類の蝟集効果や、底生生物の生物量並びに生物多様性を高める効果も期待できました。
人工海藻シーラントによる人工藻場造成は、高波浪海域でも簡単に設置が可能であり、集魚効果および海藻の付着基盤としての機能も確認されました。また、アオリイカの人工藻場での滞留も確認され、これから迎えるアオリイカ産卵期に向けて、人工藻場内で初の産卵も期待されます。漁場としては改善の余地があり、その機能を高めるためには規模拡大が重要と考えられます。ただし、人工藻場の拡大も単に大量投入という手法にとらわれず、配置方法や長さ・形状等を改良することで、コスト面に配慮した工法を視野に入れて研究を行い、より効率よく魚介類を蝟集させる技術、沿岸生物の再生産の場となる技術開発が必要となります。