[委託先団体] 株式会社アステクノス
[連携大学] 東京大学大学院理学系研究科 付属地殻科学研究施設 特任研究員 宮原秀一
[連携団体] 株式会社プラズマコンセプト東京
一酸化窒素(以下、NO)は従来から肺高血圧の治療に用いられていますが、新型コロナのまん延をきっかけとして医療従事者に対する感染予防法として注目されました。感染予防法としての使用も治療目的と同様に低濃度のNOを吸引する方法が想定されていますが、NOは医療用ガスとしてボンベ充填での流通であり、専用機器により所定の濃度に希釈することが必要など一般環境での使用に適したものではありません。ごく低濃度のNOを吸入することによる有効性が期待でき、生活環境下での使用に適した方法が確立できれば、医療従事者に留まらず、また新型コロナ以外の空気感染症に対しても生活環境下での感染予防効果が期待できます。
本研究は、感染予防および後遺症の軽減方法として低濃度のNOを継続的に吸引することの安全性と有効性について検討すること、またNO 発生方法として大気圧プラズマ応用技術や空間濃度の推定方法に関する検討から、NO発生器の商品化可能性について検討することを目的とするものです。
■【研究成果@】低濃度NOの継続吸引に関する有効性と安全性
NOは生体内、特に副鼻腔で多く産生されており、これは線毛運動機能を賦活させていると考えられます。線毛運動は体外から気道に侵入した細菌やウイルスを排出する働きがありますが、例えば慢性気道疾患の患者では気道内のNO産生量が50%以下に低下することがわかっています。低濃度のNOを継続的に吸引することで気道内のNOを補い、線毛活動を活発にすることができれば空気感染の予防効果が期待できます。
NOは化学的に不安定で容易に二酸化窒素(以下、NO2)に変化することから、環境基準はNO2と合算した空間濃度で考えられていますが、NO単独での明確な基準が存在しません。NOおよびNO2の基準値、推奨値を合わせてみても0.04ppm〜5ppmと様々です。幅広い年齢の人にとって安全な濃度に関する今後の研究が望まれますが、恐らく0.5ppm〜1ppm が目標濃度だろうと考えています。
■【研究成果A】NOの空間濃度に関する解析手法の開発
NOの発生源を設計する上で、目標濃度に対して必要となるNO 発生量の推定が必要です。一方、NOは発生と同時にNO2へも変化していくため、空間濃度の解析はNOの増加と減少を同時に扱う必要があります。本研究では閉空間でのNO濃度の時間変化に関する解析法を検討し、NO発生源の開発に応用しました。
誘電体バリアを用いた大気圧プラズマを応用したNO発生源を試作しました。誘電体バリアとは導体表面に絶縁層を設けたもので、誘電体バリア表面と対抗する電極の間で放電することでプラズマを発生させるものです。誘電体バリアはガラスなど無機質の絶縁層を用いることが一般的ですが、本研究では小型化に向けた成形性などを考慮し、高分子材料の適用を目指しました。
最初の段階として連続放電による誘電体バリアの劣化プロセスを分析し、電極の長寿命化の目途を立てました。同時に非常に安価な電源の適用を実現しています。
[図1:電極の構造] |
[写真2:プラズマ発生の様子] (連続放電試験中の状況) |
NOは線毛運動を賦活することから、低濃度の吸入が空気感染の予防に有効である可能性を示しました。一方、後遺症軽減に関して現時点では明確にできておらず、今後の研究課題です。またNO の化学的不安定さを考慮した空間濃度の解析法を開発し、NO発生源の開発に役立てています。今年度は発生源の開発を重点的に進めましたが、今後は実際の濃度特性と解析結果の比較から、解析精度の向上を進め、実空間でのNO発生源の最適配置の推定なども目指す予定です。
NO発生源の開発では、非常に安価な放電用電源とともに装置の小型化に合わせた電極を試作し、その耐久性試験を重点的に実施しました。すでに電極の長寿命化の目途を立てており、本研究の成果は商品化できる可能性があることを示しました。