[委託先団体] 株式会社東海アクアノーツ
[連携大学] 東海大学海洋学部 環境社会学科 教授 石川智士、海洋理工学科 教授 砂原俊之
[連携団体] 由比港漁業協同組合、静岡市海洋産業クラスター協議会
基礎コースにおいて、漁場としての機能を強化するには人工藻場の規模拡大が重要と思われました。限られた予算、狭い土地への設置を考えた場合、海底面だけでなく海底から水面までの空間を有効利用することにより、コスト面およびメンテナンス性に配慮した工法を提案できると考えました。
応用コースでは、従来の標準シーラント(幅5cm、長さ2m)よりも長いシーラントを開発し、実海域での耐久性および魚介類の蝟集効果の検証を行いました。また、沿岸生物の再生産の場となる技術開発として、イカ類の産卵を想定した人工海藻を作製設置しました。さらに、ブルーカーボン分野への貢献の可能性を評価すべく、シーラントに付着した珪藻類に含まれる炭素量から炭素固定量を算出しました。
■長尺シーラントの耐久性と蝟集効果
由比漁港近傍の未利用海域であるカワラナカ( 沿岸部から550m、海底砂礫、水深20m) に設置可能な長尺シーラントを作製するにあたり、強度計算を行った結果から、幅20cm、長さ8mの長尺シーラントを開発しました。2022年9月26日に海域に設置しました。設置期間中に台風17・18号の接近を経験しましたが、破損、移動等は見られず高波浪海域での実用性が証明できました。
[写真1:蝟集する魚類] |
[写真2:長尺シーラント] |
[写真3:水中ドローン] |
長尺シーラントを取り付けたシーラント藻場では約4 か月の観察期間で58種の魚介類が確認されました。蝟集する魚介類はシーラントに沿って滞留することから長さを確保することは滞留する空間の拡大につながると示唆されました。配置する際には密に設置することで滞留時間が増え、アオリイカ、クエ、オオモンハタ等の高級魚が蝟集することが明らかとなりました。
[図2:魚介類の蝟集状況] |
基礎コースで設置したシーラントに付着する珪藻類から大区画の総炭素量を求めた結果、同規模のアマモ場の総炭素量の6.40〜42.25% と見積もられ炭素固定能が認められました。大型海藻の生育時期が冬季であることから本事業では珪藻類を用いましたが、本来シーラントには大型海藻の生育が認められており、海藻類の生育に適した水深帯に設置することや長さを調整することにより天然藻体で造成された藻場と同程度の炭素固定能が期待されます。
[写真5:イカ類産卵用 シーラント] |
[写真6:コウイカ類の卵] |
イカ類の産卵用にデザインし設置したシーラントにコウイカ類の卵が確認され、再生産の場として機能していると考えられました。シーラントに蝟集するアオリイカの産卵は確認できませんでしたが、アオリイカの産卵に適した場所は波静かな場所であるため、今後そのような海域への設置が望まれます。
シーラントを用いることによって、高波浪海域においても、8mもの巨大な構造物を簡単に設置することができ、多くの種類の魚介類が蝟集する場を創出しました。密に配置することによって魚介類の滞留時間が増え、アオリイカ、クエ、オオモンハタ等の高級魚の蝟集も確認されました。
また、海生生物の生息の場だけでなく、イカ類の産卵も確認され再生産の場としての機能、さらにシーラントに付着する生物による炭素固定能も明らかとなり、ブルーカーボン対策技術としての利用可能性も考えられました。