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地域課題に係る産学共同研究委託事業
基礎コース
究極のメイドイン静岡・マグロ肥料を用いた静岡茶の高付加価値化
[委託先団体] 伊豆川飼料株式会社
[連携大学] 静岡大学学術院農学領域 准教授 一家崇志
目的
静岡の地場産業であるツナ缶などの水産加工業におけるマグロの残渣を原料としたマグロ肥料(魚粕)は、静岡県内の茶生産者の間で広く利用されており、多くの生産者が様々な品評会で入賞するなど、その品質の高さが証明されています。
ツナ缶の生産量の全国シェア97%以上、お茶の生産量全国1位という水産業と農業が盛んな静岡県が、長年培ってきた産業構造『静岡の“美味しい” を支えるツナサイクル』の上に成り立っている、静岡県でしかできない貴重な肥料です。
この静岡ならではの肥料を持続可能なものとするために、マグロ肥料を茶の栽培において効果的に利用する方法を確立し、それにより茶の生産者が生産物の市場価値を向上させることを証明し、「究極のメイドイン静岡茶」を高付加価値化することが長年農業と水産業の橋渡しをしてきた当社の使命です。今回はその第一歩として、静岡産のマグロ肥料が静岡茶の品質に与える影響について検証しました。
成果
■マグロ肥料の優位性
静岡産のマグロを使用して製造された「魚粕」の肥料成分の分析を実施しました。分析で得られた窒素成分は8.9%であり、これは一般的に使用される有機肥料である「菜種油粕」の6.6%や「鶏糞」の3.4%よりも高い数値でした。
また、窒素当たりの炭素量であるC/N比の数値は4.7と低く、これにより土壌中での分解が有機肥料の中でも速いことがわかりました。別の研究によると、一般的な魚粕肥料の平均窒素は7.5%であり、平均C/N比は5.5であることが報告されています。この結果から、マグロ肥料が一般的な魚粕肥料よりも成分値が優れていることがわかりました(表1)。
[表1:有機肥料の比較]
全窒素(%) C/N 比 マグロ肥料 8.9 4.7 一般魚粕肥料 7.5 5.5 菜種油かす 6.6 7.2 鶏糞堆肥 3.4 10.3
■マグロ肥料のお茶への効果
4つの圃場から一番茶収穫直前の新芽と一番茶(荒茶)を採取し、それぞれのアミノ酸、カテキン、全炭素、全窒素の分析を行いました。遊離アミノ酸(FAA)の含有量については、慣行区と魚粕区に若干の違いが見られましたが、魚粕区において有意な差が見られたのは新芽・荒茶のアルギニン(Arg)と荒茶のGABA数値です。Argは免疫機能の向上、GABAはストレス緩和に効果が期待されるアミノ酸です(表2)。
[表2:荒茶の成分分析結果]
茶園 肥料形態 品種 (+)C EC GC EGC EGCG EGCG3'Me ECG CG Total
CatechinsCaf. mg/g DW A製茶 慣行 さえみどり 1.09 4.45 1.07 13.51 54.42 0.25 11.01 1.46 117.43 30.18 A製茶 魚粕 さえみどり 1.53 4.22 1.09 12 55.19 0.35 12.62 1.76 114.99 26.22 I製茶 魚粕 やぶきた 1.95 7.78 2.36 25.44 63.89 1.75 15.94 1.1 144.84 24.62 I製茶 魚粕 つゆひかり 1.75 7.1 2.36 23.62 50.63 1.03 12.73 1.12 125 24.66
茶園 肥料形態 品種 Asp Glu Asn Ser Gln Arg Ala Thea GAGB Total
FAAs mg/g DW A製茶 慣行 さえみどり 3.578 4.115 1.648 1.113 16.447 10.681 0.483 27.385 0.432 65.882 A製茶 魚粕 さえみどり 3.615 4.611 0.624 1.225 13.76 18.116 0.351 26.092 0.736 69.128 I製茶 魚粕 やぶきた 0.753 1.116 0.057 0.407 1.644 2.828 0.1 7.748 0.136 14.789 I製茶 魚粕 つゆひかり 1.792 3.05 0.204 1.015 4.191 7.082 0.29 26.594 0.413 44.63
また、それぞれの圃場の土壌も採取し、窒素量や炭素量の分析を行いました。慣行区におけるアンモニア態窒素(NH₄-N)が多く見られました。これは、化学肥料の施肥量が多いため、その窒素成分が土壌中に残っていると考えられます。魚粕区では硝酸態窒素(NO₃-N)が多く見られました。これは、魚粕の施用により土壌の物理性や理化学性が変化し、保肥性が高まり、土壌からのNO₃-N の溶脱が減少したためと考えられます(図1)。
[図1:土壌の成分分析結果]
まとめ
静岡ならではの「マグロ肥料」は、一般的な有機肥料に比べて成分が高く、土壌中での分解も速いことがわかりました。マグロ肥料を使って育てたお茶は、アルギニンやGABAといったアミノ酸の数値が高い傾向があり、美味しさだけでなく、機能性を打ち出すことができる可能性があります。これから注目される海外向けの需要に対しても、地域のストーリーや持続可能性は高付加価値化の要因としても活用できます。
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