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地域課題に係る産学共同研究委託事業

令和5年度 研究成果 テクノスルガ・ラボ

基礎コース

トマトに共生する微生物の分離と植物病原菌防除への応用

[委託先団体] 株式会社テクノスルガ・ラボ
[連携大学] 静岡大学農学部 准教授 橋本将典

目的

我が国では、持続可能な食糧システムの構築に向けて、「みどりの食糧システム戦略」を策定し、2050年までに目指す姿として、「化学農薬の使用量を50%低減」、「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減」などの目標を掲げています。そこで弊社では、新しい安定的な生物農薬の候補として、植物内に共生するエンドファイトに注目しています。エンドファイトとは、ギリシャ語で「endo phyte」(内部の植物)を意味する言葉で、植物内において植物体と共生している微生物の総称を指します。一部のエンドファイトには、病害の抑制や植物の生育促進効果があると報告されています。

本事業では、トマチンという苦味・有毒物質を植物体全身に蓄積するトマトから、新しい生物農薬の候補として、トマトの葉、茎、根内に共生するエンドファイトの分離を行います。

研究成果

■各部位における健全トマト株と罹病トマト株の菌叢比較

静岡県で施設栽培を行っている農家より、同一のビニールハウス内で青枯病を生じたトマト7株と比較的生育の良いトマト10株を株ごと提供いただきました。サンプリングしたトマト株計17株から、5部位(葉、茎、根、根圏、土)の計85検体を対象として、多種多様なエンドファイトからなる菌群集のDNAによる菌叢解析を行いました(図1)。

[図1:菌叢解析の流れ]

菌叢解析の結果から、土、根圏、根の菌叢の違いに着目し、細菌属ごとの存在比の比較を行いました(図2)。土ではPaenarthrobacter属の割合が健全なトマト株で有意に高く、Ralstonia属の割合が罹病トマト株で有意に高くなっていました。Ralstonia属は青枯病を引き起こす病原菌を含む属であり、圃場での観察結果とも一致しました。

より根に近くトマチンの影響を受けていると考えられる根圏ではPseudomonas属、Paenarthorobacter属およびVariovorax属の割合が健全なトマト株で有意に高くなっていました。根圏よりもトマチンの影響を受けていると考えられる根ではPseudomonas属、Paenarthorobacter属およびVariovorax属の割合が健全なトマト株で有意に高くなっていました。

[図2:各部位における細菌属ごとの存在比菌]

■トマト植物体からのエンドファイトの分離・分類

Pseudomonas属、Variovorax属、Paenarthrobacter属は、植物内生菌としての報告例もあるため、これらの属を対象に選択培地を用いて分離しました。分離の結果、64の分離株が得られ、そのうち17の分離株はPseudomonas属でした。Variovorax属、Paenarthrobacter属については分離株が得られませんでした。

まとめ

健全なトマト株で検出されたPseudomonas属、Paenarthorobacter属およびVariovorax属は、トマチンに抵抗性を持ち、青枯病菌に拮抗し、生育促進効果の可能性のある有用なエンドファイトの候補であると推察しました。現時点でPseudomonas属の17の分離株は得られており有用性のある菌株を選抜するとともに、引き続き選択培地を 用いてPaenarthorobacter属およびVariovorax属の分離を継続していきます。

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